雨が降るので
マットデイモンの『アジャストメント』を観に行くのは止めて本を読むことにしました。
奥田英朗『オリンピックの身代金』。2008年発刊の本を今頃。
簡単にいうとタイトルどおりオリンピックを人質にして8000万円を手に入れようとする話なんですが、これが超力作、面白かったです。
須賀忠 TV会社勤務 警察庁幕僚長の次男 東大出身
小林良子 古本屋の娘
落合昌男 捜査一課警部補 妻がもうすぐ出産
島崎国夫 東大大学院生
山田 山新興業社長
村田留吉 箱師(鉄道専門スリ)
米村 山新興業 人夫 25歳
樋口 やくざ人夫
ユミ 東大生 学生運動家
キン 面倒見
てな感じが主な登場人物。なんつってもいいのは鉄道スリの村田留吉。ヒロポン中毒。小さいスリで刑務所とシャバをいったりきたりのいつもハンチングかぶってる老年に近い小男。はじめはうさんくさい感じで、でも特に強い印象もなく登場するんですよ、でも、いつのまにか、あんたが主役だよ!てな気分に。またこのおっちゃんが途中無意識に、名言をたくさん吐くこと吐くこと(それも東北弁で)。でも最後の、最後のセリフがなんつっても一番。泣けて泣けてしょうがなかったですよ。
あと人夫の米村もよかったなあ。
警察内の公安課と捜査課の関係や当時の裏社会コネクションも横糸になっててとても話に厚みを加えてて読み応え満点。
学生運動に対しての親のすねを齧ったままでいて革命だなんだの甘ったれたこと言ってんな、てなスタンスもよかったな。
わたしヒロポンというといつもミヤコ蝶々の戦後話を思い出してそんでもってなぜかそっから西条凡児の番組「娘をよろしく」を思い出すんですけど、なんでかな。「娘をよろしく」にミヤコ蝶々出てなかったと思うんですけど、「夫婦善哉」とごっちゃになっとるんか。いやどっちも製薬会社が提供やったもんでごっちゃになったんか、てまあ、そんなことはほんとどうでもええですね。
で、もう一冊奥田英朗。「純平、考え直せ」。
これは2011年の本。
見習いヤクザで気のいいあんちゃん純平が鉄砲玉を命じられてそれを実行しようとするまでの、三日間の話。
大まかにいうとエドワードノートンの「25時」みたいな感じかな。純平は男の間をふらふらしてる水商売の母親との母子家庭育ち。ごくごくありふれた人たちが学校卒業→サラリーマンってな道を特に疑問なく選ぶように暴走族→やくざってな王道を葛藤もなく進み、周りはもちろん純平もそんな人生を当然と受け止めているんで、「25時」みたいな深刻な感じはないけれど。
でも、そのぶん純平のあっけらかんとしたとこ、自分の境遇にある諦観みたいなものが、ほんのり哀しみを醸し出していてアウトローなすかっとした青春小説を読んでいたつもりが読後なんだかしんみりさせられるという、テクニックの憎い小説でござんした。